クソどうでもいいことを真面目に書きます

誰も気にしないようなことを一生懸命考えます

効率的市場仮説をもっと拡張しよう

 僕が大学の卒論でテーマにした行動ファイナンスの分野において、「効率的市場仮説」というキーワードがあります。これは、証券市場で成立する価格というのは常に「正しい」のであって、不当に安いとか高い価格で取引が行われることはないという理論です。その根拠として、証券市場では無数の投資家が自分の利益を最大化しようと本気で収益機会を探し続けているため、「利用できる収益機会」(裁定機会と呼びます)は発見され次第瞬時に利用されて消滅してしまうということがあります。すなわち、とある銘柄が「不当に高い」もしくは「不当に安い」状態にあったとしても、高いものは売られ、安いものは買われることで裁定機会は利用され消滅し、価格は「正しい」状態に戻されることになるということです。また、このように「正しくない」状態は即座に解消されるような市場を「効率的」と表現します。
 
 この仮説をもっと広い範囲に応用すると、証券市場だけではなく、クソどうでもいいようなことから重要な事柄まであらゆる分野を扱えるのではないかと考えています。以下に、いくつかの分野を例示してみます。

○恋愛市場
 恋愛というものは男と女がそれぞれお互いのニーズを満たしたときのみに成立する「取引」もしくは「契約」であることから、需要と供給に基づく「恋愛市場」を想定することができます。効率的な恋愛市場では、無数の男女が自身の幸福度を最大化しようと本気でパートナーを探し続けています。つまり、異性によってつけられる恋愛市場における評価は、その人を構成する要素をすべて織り込んだ完全に正当なものであると言えます。

 すなわち、現在パートナーがいない人は、これからも見つからないであろう、異性にとっては「クソどうでもいい人」と考えるべきなのかもしれません。

○労働市場
 労働というものは労働者側と使用者側がそれぞれお互いのニーズを満たしたときのみに成立する「取引」もしくは「契約」であることから、需要と供給に基づく「労働市場」を想定することができます。効率的な労働市場では、無数の労働者が自分にとって最もふさわしい職場を本気で探し続け、同時に無数の使用者が自社にとって最もふさわしい人材を本気で探し続けています。つまり、使用者が労働者に付ける評価、労働者が使用者に付ける評価は、それぞれを構成する要素をすべて織り込んだ完全に正当なものであると言えます。
 
 すなわち、現在働き口が見つからない労働者はこれからもずっと見つからない「クソどうでもいい人材」であり、人手不足に悩む会社はこれからもずっと悩み続ける「クソどうでもいい会社」と考えるべきなのかもしれません。

○社会問題や国際問題
 社会問題や国際問題というものは、民主主義国においては国民の代表たる政治家たちが国民のニーズを受けて解決に向けて取り組むものであり、国民と政治家の間には「契約」が存在していることから、需要と供給に基づく「社会市場」を想定することができます。効率的な社会においては、有権者の多くが本気で望んだことであれば即座に政治が動きます。つまり、国民の社会問題への意識は、その問題の重要度などをすべて織り込んだ完全に正当なものであると言え、「解決されるべき問題」は発生し次第即座に解消されることになります。

 すなわち、現在残されている「問題」は、解決されるべきだと本気で考えている人が少ない問題、つまり解決されようがされまいがどちらでもいいような「クソどうでもいい問題」と考えるべきなのかもしれません。

○アイドル市場
 アイドルというものはアイドルオタクたちが求めるような要素を兼ねそろえ、なおかつその状態を長きに渡って継続することを保障することで存在意義をもつことから、アイドルとアイドルオタクの間には一種の「契約」が存在すると考えることができるため、需要と供給に基づく「アイドル市場」を想定することができます。

 今こうしている間にも、日本中のアイドルオタクたちが将来のトップアイドルの古参となるべく、虎視眈々と金の卵を探し続けています。仮にアイドル市場が効率的であるとするならば、現在アイドルたちが付けられている評価はアイドルを構成するすべての要素をすべて織り込んだ完全に正当なものと言えます。

 すなわち、現在人気のないアイドルは将来の見込みのない「クソどうでもいいアイドル」と考えるべきなのかもしれません。


○まとめ
 効率的市場仮説では、市場価格を動かすことができるのは新しいニュースのみであるとしています。逆に言えば、良いニュースさえ出すことができれば、現在ついている価格が「不当に安い」価格となり、「正しい」価格に向かって上昇することができます。なので、現在は低い評価をされている人たちも、頑張ればいいことがあるかもしれませんよ!(クソどうでもいいアドバイス)

「利益確定」できないアイドルオタクたち

 株式投資においては、様々な局面において重要な意思決定が求められます。その一つとして、「いつ売るか」つまり「いつ利益確定するのか」が挙げられます。「どの銘柄を買うか」「どのタイミングで買うか」ももちろん重要ですが、それと同等以上に、いつその銘柄を手放し、自分との関係を切り離すべきなのかということも大切です。 利益確定とは、すなわち自分の資産をその銘柄の変動リスクから切り離すことです。その銘柄を保有している時点では、常に銘柄の変動によって資産額も変動しますが、売却することによって銘柄の変動と自分の資産額の関係を切り離すことができます。

  ところで、資本主義の原則から考えれば、すべての人は自身の利益が最大になるように無意識に考えながら色々な選択を行い、行動しています。つまり、アイドルオタクたちも(そうでない人から見れば)クソどうでもいいようなことにお金を使っているようでも、彼らにとってそれは「自身の利益を最大にする最適な選択」であると考えられます。

 それでは、アイドルオタクとっての「利益」とはどのようなものなのでしょうか。過去に「一般アイドル効用関数と特殊アイドル効用関数」という記事でも書いたように、夢を持ってデビューしたアイドルが人気化していく過程を楽しむことである仮定できると考えています。「古参」「新参」という言葉にも表れるように、そのアイドルをどの時期から応援し始めたかによってファンの間のヒエラルキーが形成されていることからも、やはりできるだけ早い時期から応援していくことへのアイドルオタクたちの強いこだわりが感じられます。
 逆に、「損失」にあたるものは、やはりアイドルのスキャンダルな報道の発生であると考えられます。ネット上ではリアルよりもオーバーにリアクションをとる風潮があるようですので、書いてあるそのままを掛け目なしで受け取ってしまうのはよくないですが、「傷つく」人は少なからず存在していることはほぼ間違いないと考えられることから、アイドルのスキャンダルというのは、アイドルオタクにとってやはり損失要因の一つであると仮定することができます。
 これらの仮定の下で考えると、アイドルオタクたちにとって最も合理的な行動は、まだ知名度が低いアイドルを見つけ、人気化していく過程を楽しみ、スキャンダルが報じられる直前に手を引くということになります。ここで問題になるのは、スキャンダルはいつ報じられるのか分からないという点にあります。このような問題を抱えている中で、アイドルオタクたちはいつ「利益確定」すればいいのでしょうか。すなわち、どのタイミングで対象のアイドルから手を引き、自身の利益総額をアイドルのスキャンダルリスクから切り離すべきなのでしょうか。
 そもそも、アイドルから手を引くという行為の前には非常に高いハードルがあります。一定期間応援してしまったアイドルであれば、完全に興味を無くす・愛想を尽かすようなことはなかなか難しく、スキャンダル前であるならばなおさらです。さらに経済学的にも、これまで費やしてきた時間や金銭・労力など、もう回収不能な費用を勘案してしまい、合理的な判断が行えなくなってしまう特性を人間は持っています。(詳しくは「サンクコスト」あたりで検索)このようなことから、完全に手を引くなどということは不可能であると考えられます。合理的な判断をしようとする理性が、人間的な感情を引き出す本能に敗北してしまうという訳です。

 つまり、アイドルを応援するということは、二度と売却することのできない株式を保有するのに等しいことなのです。対象が永遠の繁栄をしてくれればいいのですが、倒産や上場廃止の可能性はどこまでもついてきます。特定のアイドルに夢中になり、一蓮托生の様相を呈しているようなアイドルオタクも散見されますが、リスク管理の観点からも改善されるべき状況であると感じています。

 著名長期投資家のウォーレン・バフェットの名言に「仮に株式を購入した翌日に市場が閉鎖され、その5年間取引が行われない事態になっても、私はいっこうにかまいません。」というのがあります。これは、バフェットが彼自身の銘柄選択能力に自信を持っているため、一度買ったらしばらく売れなくなっても問題はないということを表しています。つまり、自分の選ぶ銘柄にはスキャンダルは発生しないという自信の表れでもあります。

 アイドルも株式も、慎重な「銘柄選択」を行いたいですね。