クソどうでもいいことを真面目に書きます

誰も気にしないようなことを一生懸命考えます

「利益確定」できないアイドルオタクたち

 株式投資においては、様々な局面において重要な意思決定が求められます。その一つとして、「いつ売るか」つまり「いつ利益確定するのか」が挙げられます。「どの銘柄を買うか」「どのタイミングで買うか」ももちろん重要ですが、それと同等以上に、いつその銘柄を手放し、自分との関係を切り離すべきなのかということも大切です。 利益確定とは、すなわち自分の資産をその銘柄の変動リスクから切り離すことです。その銘柄を保有している時点では、常に銘柄の変動によって資産額も変動しますが、売却することによって銘柄の変動と自分の資産額の関係を切り離すことができます。

  ところで、資本主義の原則から考えれば、すべての人は自身の利益が最大になるように無意識に考えながら色々な選択を行い、行動しています。つまり、アイドルオタクたちも(そうでない人から見れば)クソどうでもいいようなことにお金を使っているようでも、彼らにとってそれは「自身の利益を最大にする最適な選択」であると考えられます。

 それでは、アイドルオタクとっての「利益」とはどのようなものなのでしょうか。過去に「一般アイドル効用関数と特殊アイドル効用関数」という記事でも書いたように、夢を持ってデビューしたアイドルが人気化していく過程を楽しむことである仮定できると考えています。「古参」「新参」という言葉にも表れるように、そのアイドルをどの時期から応援し始めたかによってファンの間のヒエラルキーが形成されていることからも、やはりできるだけ早い時期から応援していくことへのアイドルオタクたちの強いこだわりが感じられます。
 逆に、「損失」にあたるものは、やはりアイドルのスキャンダルな報道の発生であると考えられます。ネット上ではリアルよりもオーバーにリアクションをとる風潮があるようですので、書いてあるそのままを掛け目なしで受け取ってしまうのはよくないですが、「傷つく」人は少なからず存在していることはほぼ間違いないと考えられることから、アイドルのスキャンダルというのは、アイドルオタクにとってやはり損失要因の一つであると仮定することができます。
 これらの仮定の下で考えると、アイドルオタクたちにとって最も合理的な行動は、まだ知名度が低いアイドルを見つけ、人気化していく過程を楽しみ、スキャンダルが報じられる直前に手を引くということになります。ここで問題になるのは、スキャンダルはいつ報じられるのか分からないという点にあります。このような問題を抱えている中で、アイドルオタクたちはいつ「利益確定」すればいいのでしょうか。すなわち、どのタイミングで対象のアイドルから手を引き、自身の利益総額をアイドルのスキャンダルリスクから切り離すべきなのでしょうか。
 そもそも、アイドルから手を引くという行為の前には非常に高いハードルがあります。一定期間応援してしまったアイドルであれば、完全に興味を無くす・愛想を尽かすようなことはなかなか難しく、スキャンダル前であるならばなおさらです。さらに経済学的にも、これまで費やしてきた時間や金銭・労力など、もう回収不能な費用を勘案してしまい、合理的な判断が行えなくなってしまう特性を人間は持っています。(詳しくは「サンクコスト」あたりで検索)このようなことから、完全に手を引くなどということは不可能であると考えられます。合理的な判断をしようとする理性が、人間的な感情を引き出す本能に敗北してしまうという訳です。

 つまり、アイドルを応援するということは、二度と売却することのできない株式を保有するのに等しいことなのです。対象が永遠の繁栄をしてくれればいいのですが、倒産や上場廃止の可能性はどこまでもついてきます。特定のアイドルに夢中になり、一蓮托生の様相を呈しているようなアイドルオタクも散見されますが、リスク管理の観点からも改善されるべき状況であると感じています。

 著名長期投資家のウォーレン・バフェットの名言に「仮に株式を購入した翌日に市場が閉鎖され、その5年間取引が行われない事態になっても、私はいっこうにかまいません。」というのがあります。これは、バフェットが彼自身の銘柄選択能力に自信を持っているため、一度買ったらしばらく売れなくなっても問題はないということを表しています。つまり、自分の選ぶ銘柄にはスキャンダルは発生しないという自信の表れでもあります。

 アイドルも株式も、慎重な「銘柄選択」を行いたいですね。